今年ベストアルバムのリリースという共通のトピックから実現した、松任谷由実とサカナクション山口一郎のラジオ共演。
ユーミンのラジオ番組「Yuming Chord」に2週に渡ってゲストで呼ばれていました。
その中で、サカナクションのフロントマンである一郎くんが"歌が生まれた場所"というテーマで語っていた内容が音楽好きにとって興味深いものだった。
自分用の備忘録として書き残す意味合いもありますが、今回はサカナクションの曲作りについて解説や考察を交えながら紹介していきます。
山口一郎 音楽との関わり
Q.初めて曲を作ったシチュエーションは?
A.父が純喫茶をやっていて小さいステージがあった。
大人が真剣に歌っている姿や真剣に聴いて没頭している姿を見てきて、"恥ずかしい"から"かっこいい"へ変わる瞬間があった。
音楽の「何に没頭しているんだろう?」と思った。
フォークギターを習っていたから自分もやりたい!と思い、小5の時に「青い空」という曲を初めて作った。
お父さんがフォークシンガーの友部正人さんと親交があったり、いつも自然と音楽に触れるような子ども時代だった模様。
Q.音楽的ルーツとは?
A.もともとは文学が好きで詩、俳句、短歌を好んでいた。
石川啄木(たくぼく)、石原吉郎、石垣りんといった雰囲気が暗い詩人が好き。
意味がストレートにとらえられない隠喩(いんゆ)の遊びに没頭していった。
「こんな美しい言葉があるのになんで同級生は覚えられないんだろう?気づかないんだろう?」と不思議に思っていた。あるとき、一番勉強ができないクラスメイトが光GENJIの曲をなにも見ずに歌った。
「教科書の一文も覚えられないやつが歌になった瞬間に言葉を覚えられるんだ。音楽ってすごい」と思った。
自分が美しいと思った言葉を音楽にして伝えたらどうなるだろうと思い没頭していった。
ベストアルバム魚図鑑について
Q.魚図鑑に収録されている曲「ルーキー」について
A.サカナクションの曲のコード感は、"A・Bメロはマイナーから入ってサビは印象的なメロディーへ解放される"というパターンが多く、それが一つの持ち味になっている。
ユーミンはルーキーについて、「メジャー7からサビに突入する感じがメランコリック(哀愁を帯びた感じ)で好き」というコメントをしていた。「アイデンティティ」のようなフェス感漂うよそゆきの曲を作って、アッパーな曲ばかりのバンドだと思われるのが嫌だった。大きなスケール感をもって他のバンドとは違う自分たちを出したかった。
「こんなルーキー出てきたら嫌だ」というテーマで作った曲。リリースのとき東日本大震災が起きてプロモーションどころじゃなかった。
音楽は衣食住に入ってない。
「音楽っていうのはなんだろう?どういったことなんだろう?」とあらためて音楽の役割を考えた。
「東京に残ってどうなっていくのかをスケッチしなきゃ」と思った。
だから「ドキュメンタリー」というタイトルのアルバムをリリースした。
ドキュメンタリーに収録された曲たちは文字通り、東京の景色・山口一郎氏が見た感じ・思いを描写したものになっている。
その3枚のカテゴライズの意味は、たくさんの人に伝えるべき曲(浅瀬)とメンバーが好きな曲(深海)、それを混ぜたもの(中層)という選び方をしている。
サカナクションの曲作り
Q.魚というキーワードについて
A.山口一郎氏にとって音楽は「心象風景」「心象スケッチ」である。
故郷の小樽といえば海や川で、なにかあると糸を垂らして物思いにふけっていた。
その時に見た風景や一緒にいた仲間が記憶にある。
25、26歳くらいまでの記憶やイメージの"貯金"でいま音楽を作ってる。
サカナというのは重要なビジュアル。
「ナイトフィッシングイズグッド」「朝の歌」「ボイル」など、魚を連想させる曲は個人的に好きな曲が多い。
また、サカナクションを語るうえで「夜」というキーワードも外せない。
ナイトフィッシングイズグッド
「いつかさよなら 僕は夜に帰るわ 何もかも忘れてしまう前に」
Q.曲づくりはどこでどんなスタイルで?
A.サカナクションには「ギター1本で弾き語れない曲をアレンジしない」というルールがある。
だから曲のルーツはフォークで、バンドアレンジするときに違和感が出てくる。
その自分たちの好きな違和感をそれぞれみつけていくというスタイルで曲作りをしている。バンドなので、生のグルーヴと打ち込みの規則的なグルーヴの両方の良いところを混ぜ合わせたい。
マジョリティかマイノリティというどちらかに行ききらず、足元の一本の線をはさんで、"たまにマジョリティ・たまにマイノリティ"というように重心移動する。
そのちょうどいいところを常に探しているイメージ。
聴く音楽が多様化している昨今でも、まだテレビで取り上げられる音楽がマジョリティ(多数派)みたいなところはある。
しかし、ネットで手軽に音楽を探せる時代に「大多数に受け入れられる」ということ自体が難しくなってきている。
こういうマーケティングのような話になると、いつも星野源の「夢の外へ」を思い出す。
夢の外へ
「自分だけ見えるものと 大勢で見る世界の どちらが嘘か選べばいい
君はどちらをゆく 僕は真ん中をゆく」
この「夢の外へ」の歌詞のとおり、この時代の売れるアーティストのスキルの1つに、"自分がやりたいことと求められることのバランスをとる"ということがあると思う。
多数に受け入れられる曲と、少数に受け入れられる曲。その真ん中をいく。
なおかつ自分たちが納得できる音楽を作る。
星野源は言わずもがな、サカナクションはそのさじ加減を常に変えている。
曲作りへのこだわりがとても感じられるが、その経緯としてこんなコメントがあった。
サカナクションはデビュー10周年。
デビューから駆け上っている期間が早くて、紅白出場など一回達成してしまった感がある。
5年前くらいに「これ以上たくさんの人に伝える必要があるのかな?」と思った。
自分が好きなところとみんなが好きっていうところを混ぜ合わせて新しい違和感を作っていきたいっていうのがあった。
そこから5年。
よく出てくる「違和感」という言葉の意味を少しかみ砕いて考えてみる。
ギター1本で作り上げたフォーキーな曲をバンドサウンドに仕上げるとなると、その間には大きなギャップがある。
たとえばフォークからダンスミュージックへ変化させていくやり方は想像もつかないけれど何通りもあるだろう。
作り始めと完成の間は真っ白の空白。空白をいろいろな音で埋めて試してみる。
そうすると、空白に音をいくつも重ねて曲を立体的にしていく過程で、いろいろなアイデアやアレンジが生まれる。
試しに、好きなAのジャンルとBのフレーズを組み合わせてみたときに、今までなかった雰囲気の音になるかもしれない。
その新鮮な組み合わせのことを違和感と呼ぶのだろうと解釈した。
ライブが最高
Photo by:BARKS
ライブが最高でこの瞬間のために音楽やってきたんだなと毎回思う。
ライブにはいろんな人が関わっていてチームでやっている。
自分で選んでいないことに自分が影響されていることが楽しくなっていった。
その中で分かった大切なことは、どれだけ趣味が同じ人と出会っていくかということ。
そして大義(=愛)が大事だということがわかった。
ダンスミュージックを伝えたいとか、大義が一緒だったときの爆発力はすごいものがある。今はフェスブームで、フェスもアミューズメント化した。
フェスで勝つことを意識していた時期があった。
ここでいうフェスで勝つという意味は「いかに盛り上げたか、楽しませたか」ということ。
ただ最近は動画を簡単に探せるからAORが盛り上がってきた。※AORとは、シングルチャートを意識したものではなく、アルバム全体としての完成度を重視したスタイルの音楽のこと(Wikipediaより)
たとえば山下達郎、細野晴臣など。
昔のいいものを純粋に取り上げたり、沁みる聞き方が少しずつ浸透してきた。
でも盛り上がりたい、騒ぎたい人もまだまだ多い。
大事なのは持ち時間でどうストーリーをつくるかということ。
ネットで検索して昔の音楽を掘ることが一般化してきている。
そうするとリバイバルブームも過去のバンドをルーツとしている音楽が出てくるのも、やはり自然の流れだ。
そして観客を静かに引きこむためには緩急が大切になってくる。
ワンマンとフェスではライブの見せ方も違うけど、共通することは同じ。
フロアを踊らせるのも静かに入り込ませるのも、ストーリー展開があってこそなのだ。
実際にサカナクションのライブを見ると、"どんな景色を見せるか"ということにとことんこだわっていることが分かる。
新アルバムのリリースは9月くらいを予定しているらしい。
ということは6月から始まるSAKANAQUARIUMに続いて、リリースツアーも発表されるかもしれない。
魚図鑑を聴きながら楽しみに続報を待ちたい。
現場からは以上です。