「アイデア」が配信されてから100万人くらいがこの曲の良さについて鼻息荒く語っていると思うけど、わたしも触れずにはいられない。
まず星野源の歌詞は普通の暮らしが下地にあって、広い世代に向けた朝ドラとも相性がいいように思う。
湯気には生活のメロディ
たとえば温かさの象徴としての"湯気"がでてくる。
畳んだタオルのあと
「Family Song」より
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おしぼりで顔拭くのは 色々と汚れてるからさ
「営業」より
今回の「アイデア」も含め、星野源の音楽には生活の痕跡が絶妙に散りばめられている。そしてまんまと最大公約数的な暮らしの風景にいつもほっこりさせられてしまうのだ。
ただこのほっこり星野源にだまされちゃいけない。人は見かけによらない、というけれどそれは音楽にもあてはまる。
しばしば破天荒で反抗的なさまを「ロック」と形容したりするけれども、思うにロックというのはすべて分かりやすい姿をしているわけではない。
「アイデア」をただの楽しげなポップソングと思ったら大間違いだ。
踏まれ潰れた花のように
にこやかに 中指を
1番の"朝"に対比させた2番の"真夜中"のなかの一節。
この言葉で次につながるサビの意味合いがまた変わって響いてくる。
つづく日々の道の先を
塞ぐ影にアイデアを
雨の音で歌を歌おう
すべて超えて響け
ここに至るまでは悔しい気持ちを呑み込んでも進んでいく、という意思が込められているようでグッときてしまう。
貪欲に欲張りに、狙いすましたその言葉選びに恐れ入るばかり。
この「アイデア」こそがポップソングの皮を被った最高の"ロック"じゃないか。
こういう仕掛けがいつも痛快な気分にさせてくれる。
そしてここでようやくMVに触れよう。
MVで駆け回ってスクリーンの前で立ち止まる。
スクリーンの色は今までのシングルのジャケットをイメージしている。
「Yellow Dancer」「恋」「Family Song」「ドラえもん」、わざわざ振り返っておいて喪服で葬り去る。
そのどれもが新しい試みをもってたくさんの人に愛されてきた作品なのに、だ。
つづく日々を奏でる人へ
すべて超えて響け
これはもちろんリスナーに向けたメッセージだ。
しかし同時に苦悩して生み出したものに別れを告げる、自分自身を追い込む決意のようにも聞こえる。
何でもないような顔をしてそういう意図をMVに感じさせるところがクールだ。深読みしすぎかな。
いずれにしても、ほんわかした朝ドラの曲では決して終わらせない。
わたしは何がいちばん悔しいって星野源が大好きで仕方なくて、次の作品も心待ちにしてしまっていることだ。
"つづく日々を奏でる人"、それは星野源のことでもあるとわたしは思うよ。
すべて超えて、また新しい音楽を届けて驚かせてほしい。
アイデア
星野源
J-Pop
¥250
現場からは以上です。