日食なつこ「致死量の自由」レビュー|結局12分では終わらない多彩さ

ライブ会場限定で販売していた日食なつこのEP音源が配信された。
基本的にライブに行けないので、反応をみて手に入れる手段をすぐに差し出してくれるのはとてもありがたい。


内容は4曲で12分、平均して1曲3分ほどのストーリーは短いながらもバラエティに富んでいて何度も何度も再生してしまう。
ジャケットはタバコモチーフ。こういうところもどことなくシニカルで日食なつこっぽいな。

コメントは一曲ずつコンパクトにまとめてます。

致死量の自由


耳に飛び込んでくるのは淡々とした連打のピアノ。
そうそう、こういう攻撃にまわった日食なつこは大好物!とうれしくて膝を打つ。
音量を上げる。
わたしの勝手な願いなんだけど、ピアノを弾いているときの彼女にはいつも自信満々で高飛車でいてほしい。

そしてピアノに負けず劣らずベースがヌルッヌルですごく興奮した。
バラバラと降るピアノ、うねうねと執拗に絡みながら推進力のあるベース、クラップ、シンバル炸裂。これらがめくるめく耳を駆け抜けてまるで夕立のようだなと思う。

すがすがしい気持ちになりたくて、こうして文章をつづる間にも何回もリピートで聴いている。
日食なつこの言葉選び、つまり歌詞が好きでわたし自身がすでに盲信してるフシがある。

果てなき自由は致死量の猛毒だった

歌詞になぞらえてみれば、まんまと依存して死に至るのも時間の問題だね。
上等上等、本望だよ。

Misfire


直訳は「不発」。思うようにいかないくすぶった情景を流れるように歌う。

シンプルなピアノ弾き語り。
ピアノで朗々と語る歌というのはこってりした歌謡曲のようになりがちだ。だが彼女の作る曲はコード感やメロディーの響きが決してダサくならない。

弾き方もあるのかもしれないが、重厚さと軽やかさの緩急が絶妙で耳ざわりが最高。
加えて低音から高音まで行ったり来たりの振り幅に身を任せていると、無意識に体が揺れはじめる。
どこか中性的な彼女の声を存分に楽しみながら、船を漕ぐようなグルーヴ感にいつまでも浸っていたい。

THIS LOVE


懐かしい。Maroon5のカヴァーだ。
原曲はこれ。


カヴァーならもっと大胆に再構築すると思っていたから、選曲自体もアレンジも意外に感じた。
リフはそのままに原曲イメージを損なわない。
いままでにオリジナルでも英詞の曲を書いていて、聞き取りやすいきれいな英語だったので今回カヴァーが音源になってうれしい。

ピアノに変なアレンジが無いぶん、自然と声のほうに意識が向いていく。
声が中性的とは先ほども言ったけれど、男性ボーカルの曲がすごくはまるなあ。ほかのカヴァーも聴いてみたい。
BEN FOLDSあたりでお願いできないでしょうか。

ローカルミーハーのうた


まずローカルミーハーってなんだ?と思って調べたら、街に実在する店や人を紹介するプロジェクトのために書き下ろされた曲のようだ。

MVありきで曲は補完的な役割を果たしている。
ローカルミーハーという刷り込みのような言葉のパンチラインが柱にありつつ、ストーリーテラーとして歌詞をはめていく日食女史の腕は確かなものだなと思う。

出てくる人たちの温かさに華を添えている。生活が息づいた歌は温度感がありありと伝わってきてこちらもなんだかほっこりした気持ちになるのだ。

新アルバムの発売も決定

来年早々に発売するアルバムのトレーラー映像も公開されている。


タイトルは永久凍土。相変わらず無骨で堅物な世界観に笑みがもれつつ彼女らしくて安心してしまう。
日食なつこという人は本当にカッコよくて愛おしい。
不協和音のストリングスが期待を煽るなあ。フルアルバムとっても楽しみだ。

こちらの記事でも彼女の魅力を存分に語っています。よろしければ。

現場からは以上です。
おすすめの記事